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2018年 07月 16日

2ストロークエンジンについて その.1

今更かい、と言う気もしますが今や絶滅危惧種となった2ストロークエンジンについて解説してみます。
そもそも、2ストローク1サイクルエンジン(以下、2ストエンジン)が正式な名称ですが「2ストエンジンとは?」と聞かれると「クランク1回転で1サイクルが完了するエンジン」と言うのが的を得た答えだと思います。
「クランク1回転」は、ピストン2行程(1往復)で、「1サイクル」は、エンジンの基本動作である「吸気⇒圧縮⇒爆発⇒排気」のことです。これを繰り返してエンジンは連続して回ることになります。
「吸気⇒圧縮⇒爆発⇒排気」の各動作をピストン1行程ごとに行うのが4ストローク1サイクルエンジン(以下、4ストエンジン)で、そのために燃焼室に吸気と排気のバルブを設置しています。エンジンの形態としては4ストエンジンの方が正統派と言うことになります。歴史的に見ても1880年代初めにドイツで開発された世界初のガソリンエンジンは4ストロークでした。少し遅れてイギリスで2ストエンジンが製作されましたが実用に供するものは1890年代初めに同じくイギリスで開発されました。
2ストエンジンは、1回転に1回爆発(力を出す)し、4ストエンジンは、2回転に1回爆発するのだから同じ回転数ならどう考えても2ストエンジンの方が出力的には有利です。但し単純に2倍の出力にならないことや出力向上も難しいのは2ストエンジンが「吸気⇒圧縮⇒爆発⇒排気」の動作をミックスして行うことに原因があります。そのため、どうしても超えられない燃費や排ガスの課題があり残念ながら絶滅危惧種の道を歩むことになりました。
エンジンの動作アニメーションは、Web上に沢山あると思うのでそれを参考にしてください。

1955年に発売されたヤマハの第一号製品のYA-1は、ドイツのDKW・RT125を手本にしたことは有名ですが車両と言うよりはエンジン形態(2スト)を優先した選択だと思います。当時バイクのエンジンとして4ストも2ストも存在しおり、浜松にはホンダや丸正(ライラック)など4ストエンジンで成長しているメーカーもあったのですが、ヤマハが不確定要素の多い2ストエンジンを選んだのは軽量・シンプルで小型のバイク用エンジンに向いており、性能向上の可能性もあると判断したのだと思います。
2ストエンジンは、ピストンが下から上に動く時にピストン下側で吸気を行い、同時に上側で圧縮を行います。更にピストンが上死点(最上部の位置)近くでガソリンと空気の混合気(以下、混合気)に着火して爆発の力でピストンが上から下に動き、ある程度下がってから排気を行います。更にピストンが下がりながら掃気と排気を行います。ピストンが下死点(最下部の位置)に戻って一回転し、「吸気⇒圧縮⇒爆発⇒排気」が完了したことになります。
以下は、2ストエンジン(ピストンバルブ吸気)の作動図です。
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4ストエンジンの場合は、吸気弁から直接混合気が燃焼室(シリンダ内)に入ってきますが2ストエンジンでは吸気行程で一旦クランク室に入ってからピストンが下がってくる爆発/排気行程の途中からシリンダ側面にあるポート(掃気ポート)よりシリンダ内へ新しい混合気が排気ガスを追い出すように入ってきます。この工程を掃気行程と言います。
エンジンが出力を出す重要な要因として、適正にガソリンと空気が混ざった出来るだけ多くの混合気をシリンダ内へ取り込み適正に圧縮して燃焼/爆発させるということがあります。
この出来るだけ多くの混合気を取り込むという意味として「充填効率」という言葉が使われます。シリンダ(燃焼室)内に新しい混合気を詰め込む(充填する)効率と言う意味です。2ストエンジンでは、このシリンダ内へ新しい混合気を送り込む掃気行程が重要な要素となります。
もう一つ2ストエンジンの重要な要素として吸気方式があります。形態(呼び名)としては、「ピストンバルブ」「ピストンリードバルブ」「クランクケースリードバルブ」「ロータリーディスクバルブ」などがあります。
YA-1やYDS系で採用された「ピストンバルブ」を中心に解説して行きます。
以下は、ヤマハ発動機の展示施設「ヤマハ・コミュニケーションプラザ」(https://global.yamaha-motor.com/jp/showroom/cp/)に展示されている1955年YA-1のカットエンジン(125cc単気筒)です。
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「ピストンバルブ」は、ピストンの側面を利用しシリンダの吸気ポートを開閉するため構造がシンプル(部品点数が少ない)ということとエンジン幅に影響されずキャブレターやエアクリーナーがレイアウトできるという利点があります。特に2気筒系ではメリットが大きいと思います。その半面、ピストンの側面を利用しその上下する動きでシリンダ側面に設けた吸気ポートを開閉するので吸気タイミングを自由に設定できないと言う不利もあります。ピストンが下がってくる時は吸気ポートを閉じてクランク室圧力(2次圧縮)を上げて有効に掃気したい(充填効率を上げたい)のですがどうしても吸気ポートが開いたままの時間がありキャブレター側へ吹き返しが出てしまいます。
そこで出力を得るために先に述べた掃気行程の作り込み(掃気効率の向上)が重要となります。YA-1の開発では掃気通路に水を勢い良く流してその出方を観察したと言う話があります。気体と液体では流れ方が違うと思いますがそれでも何とかしたいと言う開発者の熱意でしょうか。
YDS系では当初2ヶ所だった掃気ポート(左右に1ヶ所づつ、ヤマハでは排気ポートと合わせて「3ポート」と呼ぶ)を1967年のDS5-Eで4ヶ所(主掃気と補助掃気が左右に1ヶ所づつ、同じく「5ポート」と呼ぶ)とし3.5馬力の出力向上がありました。(鋳鉄シリンダからアルミ鋳包みシリンダへの変更もあり)
以下、「創造への挑戦=ヤマハのモーターサイクル技術」(ヤマハ発動機)より。
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メーカーのサービスマニュアルには教科書的に構造の説明などが載っているものがあります。
以下、1967年のAS-1(125ccツイン)サービスマニュアルより。同じく「5ポート」が採用されました。
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ピストンバルブ形式だと吸気ポートがシリンダ吸気側に大きく開いておりその上に掃気ポート(通路)を設けることが困難です。また、吸気タイミングを自由にできないと言う不利がありました。そこで登場するのが「ピストンリードバルブ」です。'70年代前半のトレールモデルから採用されました。ピストンバルブの吹き返しをリードバルブで押さえる方式で同時に吸気ポートの上に新たな掃気ポート(ヤマハでは7ポートと呼ぶ)を作り充填効率の向上を図りました。これにより特に中速域の出力が向上しトルク谷が無くなることでスムーズな出力特性が得られました。以下、「創造への挑戦=ヤマハのモーターサイクル技術」(ヤマハ発動機)より。
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そんな便利なものならもっと早く採用すればいいのにと思いますが当初のリードバルブ本体は薄いステンレスの板で出来ており、それが取り付くアルミのケース側には緩衝材としてゴムがコーティングされていました。リードバルブは、エンジン回転数と同期して開閉するので高い耐久性と通気抵抗を下げるための柔軟性が要求され、長い開発時間が必要でした。
リードバルブ本体がステンレスからFRP(繊維補強樹脂)へ進化し、追従性が向上する中でピストンでの吸気ポート開閉に頼らず直にクランク室に付けてクランク室内圧力で開閉しようとう言う「クランクケースリードバルブ」が生まれました。
以下、ヤマハSDR(200cc単気筒)サービスマニュアルより。
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この方式では、ピストンが上昇しクランク室の圧力がマイナスになるとリードバルブが開き(混合気を吸入し)、ピストンが下降しクランク室の圧力がプラスになるとリードバルブが閉じるので適切な吸気タイミングと高い1次圧縮を得ることが出来ます。また吸気ポート部の体積を小さくできることで1次圧縮を高くできることや混合気の温度上昇を抑えることで充填効率を高くする効果もあります。またレイアウトの自由度も増し1984年のRZV500R(V型4気筒)では、前側2気筒がクランクケースリードバルブ、後側2気筒がピストンリードバルブというレイアウトも生まれました。

ヤマハ2ストパラレルツイン系エンジンの性能経緯については、以下を参照してください。
https://ydsclub.exblog.jp/25042343/



by YDS_CLUB | 2018-07-16 13:51 | マメ知識


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