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2018年 07月 16日

ヤマハ 2ストロークパラレルツイン 250cc エンジン性能について

本題に入る前に少しエンジン性能について述べておきます。
最近は国際単位(SI単位)の採用でエンジン出力はキロワット表示に統一されましたがメーカーのカタログでは以前の馬力と併記されています。
例えばヤマハのロングセラーモデルSR400の最高出力は、19kW(26PS)と表示されています。
私の年代は馬力の方が感覚的に判り易いので馬力を中心に話を進めます。
馬力には2種類の表示方法があります。
メートル法の馬力表記は「PS」で以下の定義となります。
1PS=75kgf・m/s
これは、75kgfのものを1秒間に1m動かす仕事量を表します。
「PS」はドイツ語の「プフェルデ・シュケルト」の略で「馬の力」という意味です。
もうひとつヤード・ポンド法の馬力表記があり「HP」(ホース・パワー)で表します。
1HP=550lbf・ft/s
これは550lbf(ポンド)のものを1秒間に1ft(フィート)動かす仕事量を表します。
厳密には「PS」と「HP」は少し違っています。SI単位に変換すると以下となります。
1PS=0.7355kW
1HP=0.7457kW
次に「トルク」ですがこれは回転する力のことで単位は「kgf・m」で表します。
T(トルク)=F(力)×r(腕の長さ) → F=T/r
エンジンで言えば力(F)は、爆発圧力がピストンを押し下げる力で腕の長さ(r)はクランクの中心からクランクピンまでの長さ(ストロークの半分)に相当します。
次にこの力を使ってクランクがN回転すると仕事をしたことになります。
回転半径はrですからN回転した時の距離はL=2πrNとなりこの時の仕事(W)は
W=力×長さ=F×L=(T/r)×2πrN=2πNT
となります。仕事はどれだけのことをするか、と言うことで時間の観念が入っていません。
そこで、どれだけの仕事をどれだけの時間でするかと言うことが仕事量(馬力)の考えです。
今エンジンが毎分n回転しているとすれば、
1秒あたりの仕事=2πnT/60 kgf・m/s です。
1PS=75kgf・m/sですからこの時の馬力(P)は
P=2πnT/(60×75)となり
トルク(T)の式に直すと
T=60×75×P/2πn≒716×P/n → P=T×n/716 となります。
P:馬力 PS
T:トルク kgf・m
n:毎分回転数 rpm
トルク(T)は爆発圧力(正確には平均有効圧力)がピストンを押し下げる時に出る回転力で、馬力(P)はこれに毎分回転数(n)を掛けて716で割った値となります。判り難いですが単位を基準に考えれば整理しやすいと思います。
トルク(平均有効圧)が一定なら回転数を上げれば馬力が上がることが判ります。但し現実には平均有効圧が下がったり機械損失が増えたりするので限界があります。
エンジンのチューンアップはこの平均有効圧や回転数を上げること行っているのですが特に2ストロークの場合はシリンダ壁面に開いたポートで掃気や排気のタイミングを決めており各回転(違うピストンスピード)で平均有効圧を上げて行くのは困難です。
ヤマハ 2ストロークパラレルツイン 250cc エンジン性能について_f0351435_21015558.jpg
さて本題に入りますがエンジンの仕様で気になるのが「ボア(B)×ストローク(S)」です。
同じ250ccでも「B×S」は自由に設定出来ますがエンジンの基本となる数値なので重要な意味を持っています。
YD1のエンジンは、ドイツのアドラーMB250を基にしたので「54×54」もその値だと思います。
1957年の浅間火山レースでは250ccクラスにYDレーサーとしてB×Sが「54×54」と「56×50」の2種類のエンジンが登場しました。これはレースレギュレーションに対応するものでしたがエンジン仕様のテストも兼ねていたと考えられます。
その後市販車として登場したYDS1は、「56×50」の仕様でした。
では「54×54」と「56×50」ではどの様に違うのでしょうか?
先に述べたように出力を上げるには回転数を上げるのが手っ取り早い方法です。しかしピストンのスピードが速くなるので焼付きなどのリスクもあります。
エンジンが定回転していてもピストンは往復運動をしているのでそのスピードは一定ではありません。
通常平均ピストンスピード(m/sec)という値で議論します。
54mmストロークでエンジン回転数が6000rpmだとすればその時の平均ピストンスピードは
(54/1000)×2×(6000/60)=10.8 m/sec です。
同じく50mmストロークでは、
(50/1000)×2×(6000/60)=10.0 m/sec となり約8%低くなります。
逆に同じピストンスピードにしたら50mmストロークの方が回転数を約8%上げられることになり、うまくすれば馬力も8%上げられることになります。
2ストロークの場合排気ポートの有効面積や掃気通路の形状など性能に係る要素が多いので単純にショートストロークが有効とは言えませんが一つの指針だと思います。
'70年のDX250で「54×54」になりましたがこれは350ccとの共用化(350ccは「64×54」)のためであり、その後250cc専用設計となったTZR250が「56.4×50」や「56×50.7」となったところを見るとYDS1の「56×50」は正しい選択だったと思います。(TZR250が端数なのはフルサイズにするため)

YD系(シングルキャブ)のエンジンは低速型の実用車向けでYDS系(ツインキャブ)のエンジンは高速型のスポーツ向けエンジンなので両者の性能比較は避けるとして、'59年のYDS1から'66年のYDS3までに6PSも出力が上がっています。
ここで仕様として目につくのはキャブレター(型式の数字はボア径を示す)です。出力と共にサイズが上がっています。キャブレターはサイズを上げれば出力が上がると言ったものではなく、仕様的に出力が上がったから大きなサイズが必要となると言ったものです。エンジン出力の向上は出来るだけ多くの適正な混合気を燃焼室に充填しうまく着火して高い爆発圧力を得ると言ったものですが2ストロークの場合は各ポートや排気管の大きさ・形状など不確定な要素が多く試行錯誤で出力向上を行っていったのだと思います。
次に'67年のDS5Eで3.5PSの向上がありますが、補助掃気ポートを追加した5ポートエンジンや鋳鉄スリーブをアルミで鋳包んだメタリックボンドシリンダの効果だと思います。
'59年のYDS1から'69年のDS6までの10年間で実に10PS、50%も出力が上がっています。'60年代は正にYDSエンジンの成長期だったのです。
逆に'70年代は2ストロークエンジンにとって苦難の時代でした。メイン市場だったアメリカでの排気ガス規制のため、2ストロークエンジンは消え入りそうになりました。
そんな中でも「ピストンリードバルブ」や「CDI点火」などの技術が投入され、最大出力の向上はありませんでしたが低速域での出力改善が図られ扱いやすいエンジン特性となりました。
そして激しい出力競争の時代 '80年代がやってきます。そのトップバッターが'80年に登場したRZ250でした。
水冷となり最大出力も35PS/8500rpmとなりました。その3年後にはYPVS付きのRZ250Rで8PSアップの43PS/9500rpmまで行きました。2ストロークエンジンの基本的な出力向上技術は頂点に達しディバイスと呼ばれる付加技術で出力を出して行く時代となりました。その中でも排気ポートのタイミングを制御するYPVSの効果は大きかったです。
更にその1年後にはRZ250RRで45PS/9500rpmまで上がりました。平均ピストンスピードは17.1m/secとなりました。これはエンジン冷却性の向上と各材料やオイルの性能向上に依るところが大きいと思います。
その後、業界の自主規制で250ccの最大出力は45PSとなりましたが最大トルク値の向上など扱い易いエンジン特性を目指し改良が加えられました。一般的には最大出力点と最大トルク点の回転数の差が広く、トルク値が高い方がパワーバンドが広く扱い易いエンジンと言えます。
圧縮比を記載していますが2ストロークの場合は排気ポートが閉じてからの計算値で通常7前後です。圧縮比が低く出力が出ている方が熱的なリスクが低い(上手くチューニングされている)と言えます。
ツインキャブ(スポーツ系)エンジンでは、'59年のYDS1から'84年のRZ250RRまでの25年間で実に25PS、2.25倍もの出力向上がありました。どの時代のモデルもその時の先端技術で創り出されており創り手の情熱を感じるので魅力的です。

さて、どのモデルまでYDS系エンジンと呼んでいいのか?と言う疑問がありますが私はボア・ストロークが「56×50」でピストンバルブ吸気だった'69年のDS6までだと思います。(もう少し狭く定義するとクラッチがクランク軸に付いているYDS3まででしょうか。)

【補足】
現在、エンジン形式の呼び方は正式な英語読みの「2ストローク」「4ストローク」に統一されています。
以前は「2(4)サイクル」とも呼んでいましたが、正確には「2(4)ストローク1サイクル」でこれを短縮して「2(4)サイクル」と言っていました。


by YDS_CLUB | 2018-07-16 10:00 | マメ知識


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